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2024-04-30

「医療用麻薬」について正しく知る②

 
福岡市でがん難病専門緩和ケア施設の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。


今回は医療用麻薬(オピオイド)の投与経路と医療用麻薬の効果がない場合の薬の変更(オピオイドスイッチ)についてお話を進めていきます。


 オピオイドの基本的な投与経路は経口ですが、口内炎、嚥下困難、消化管閉塞、悪心・嘔吐などの原因から経口投与が継続できず投与経路の変更が必要となる場合があります。代替経路としては直腸内投与、経皮投与、皮下・静脈内投与があります。

注射の場合には一般的に持続投与が行われます。それぞれ使用できる薬物の種類,剤形に限りがあり、また投与経路による特徴も異なるので個々の患者にあわせて選択する必要があります。

❶ 経口投与

侵襲がなく簡便で経済的であり、オピオイド投与では基本の投与経路とされています。内服した薬剤は腸管から吸収される際、腸管の酵素によってある程度代謝され、さらに肝臓での初回通過効果(肝初回通過効果*1)を受けます。そのために他の経路と比較すると投与量は多く必要で、モルヒネでは代謝産物〔モルヒネ-6-グルクロニド (M6G、モルヒネ-3-グルクロニド(M3G)〕が多くなります。

口内炎、嚥下障害、消化管閉塞、悪心・嘔吐、せん妄などで投与継続が困難な場合は他の投与経路に変更します。

❷ 直腸内投与

投与は比較的簡便で吸収も速やかですが、投与に不快感を伴うため長期的な使用は適さないことがあります。

直腸炎、下痢、肛門・直腸に創部が存在する場合、重度の血小板減少・白血球減少時は投与を避けていきます。

人工肛門を造設している患者の場合、人工肛門からの投与はその生体内利用率にばらつきがあると報告されており、長期的な使用は推奨されていません。静脈叢が乏しいため吸収が悪く不安定で薬剤が便と混じりやすく、排出の調節も困難なことなどが理由と考えられています。

❸ 経皮投与

24 時間・72 時間作用が持続するフェンタニル貼付剤がよく使用されています。この製剤での効果の発現は貼付開始後12~14 時間後であり、貼付中止後(剝離後)16~24 時間は鎮痛効果が持続するので、投与開始時間や中止時間に注意する必要があります。

迅速な投与量の変更が難しいため、原則として疼痛コントロールの安定している場合に使用します。突出痛に対しては他の投与経路でのオピオイド投与が必要となります。

貼付部位の皮膚の状態が悪い場合、発汗が多い場合は吸収が安定しないため投与を避けます。また、貼付部位の温度上昇でフェンタニルの放出が増すため発熱している患者や貼付部位の加温に注意するひつようがあります。

❹ 持続皮下注

持続静注と比べて侵襲が少なく、安全で簡便な投与経路です。投与量の変更が迅速に行えるので疼痛コントロールの不安定な場合や急速な用量の調整を必要とする場合に良い適応となります。皮下への投与速度の上限は一般的に1 mL/h とされています。レスキュー薬 として早送りした場合にも,痛みを生じない流量での使用を考慮し皮下組織に刺激(痛みや壊死など)がある薬剤は避けていきます。

❺ 持続静注

 確実・迅速な効果(最大効果は5~15 分)が得られます。他の経路では困難な大量のオピオイド投与も可能です。

持続皮下注ができない場合(針の刺入部に膿瘍、発赤、硬結ができる)、凝固能の障害がある場合すでに静脈ラインがある場合に適応となります。

❻ 筋肉内投与

吸収が不安定で、投与の際に痛みが強いため使用しません。皮下投与、持続皮下注・持続静注を用いていきます。

❼ 経口腔粘膜投与

フェンタニル口腔粘膜吸収剤が使用されています。本剤は突出痛に対するレスキュー薬として用いられます。経口投与に比べて吸収が速やかなのが特徴です。フェンタニルは経口投与を行うと生体内利用率が低下します。このため噛まずに口腔粘膜から吸収させる必要があります。


オピオイドスイッチング(ローテーション)とタイトレーション

オピオイドスイッチングとはオピオイドの副作用などにより鎮痛効果を得るために必要な量を投与できない場合や、鎮痛効果が不十分な時に、投与中のオピオイドから他のオピオイドに変更することをいいます。

換算比③に従うが、変更が必要となった病状の変化および薬剤の特徴などを考慮し,変更後はタイトレーションが必要となります。同種薬剤においても、内服困難になり投与経路を変更(経直腸、経静脈、経皮など)する場合も換算比に従い同様に施行します。目的は患者のQOLの向上です。

タイトレーションとは、化学用語で「滴定」の意味である。医学用語として適切な日本語訳はありませんが、用量の調節、用量の最適化といった意味合いで一般的に使用されています。

薬剤を変更する場合や新たな薬物療法を開始するときに、効果と副作用のバランスを注意深く観察しながらその患者にあった至適用量を決定することをいいます。一般的にオピオイドスイッチングの時にはタイトレーションを行います。

2013年に使用頻度の高い3種類のオピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル)の注射剤、徐放性製剤、速放性製剤のすべてが使用可能となりました。


突出痛に使用する④フェンタニル速放性製剤・Rapid onset opioids(以下ROO)はモルヒネ・オキシコドンの速放性製剤と使用法が大きく異なるため注意が必要です。

特にROOを導入するときには、徐放性オピオイドの使用量にかかわらず最低量から開始しタイトレーションにより至適用量に調整します。使用には留意する必要があるが、きちんと患者選択を行えば非常に有用な薬剤です。