新着情報NEWS
トピックス 難病ALS待望の「新薬」医師が乗り越えた”高い壁” 緩和ケア専門施設(ホスピス)
福岡市でがん難病専門緩和ケア施設(ホスピス専門)の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。
今回は東洋経済オンラインからALS新薬の記事をUPしていきます。今後もNICEではがん・難病の利用者様を積極的にお受入れしていきます。

病気の進行を抑制する薬が承認
ついに神経難病のALS患者さんにとって待望の薬が承認された。
9月24日に厚生労働省から発表されたのは、メコバラミン(商品名:ロゼバラミン、以下、ロゼバラミン)という薬で、病気の進行を抑制することが期待できるという。治験を行った結果、進行を500日ほど遅らせるという、優れた結果が徳島大学から報告されていた。
ALSとは筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis)といい、平均3~5年で亡くなったり、人工呼吸器の装着が必要になったりする神経の難病だ。日本には約1万人の患者さんがいると推定されている。
ロゼバラミンは8月26日の同省が実施する専門部会の議論で専門家の支持が得られ、承認が確実視されていた。そして、このたび無事に開発元のエーザイに製造、販売が認められた。
ロゼバラミンは、メチコバールというビタミンB12誘導体製剤の有効成分 の用量を多めにした薬だ。メチコバールは以前から神経の病気に多用されているもので、神経の専門家でなくても、医師であれば、処方した経験がある人はとても多い。
かくいう筆者も(処方数は多くないほうであるが)、何度か処方している。言葉は悪いけれど、今ひとつ効きが良いとはいえず、末梢の神経障害などで苦しむ患者さんに「出すとしたらこれくらい」ということで出すことも、なくはない薬である。少なくともそういう面はあった。
ロゼバラミンとはどういう薬か
今回、承認されたロゼバラミンは、通常用量が500マイクログラムのメチコバールの100倍にあたる、50ミリグラムの高用量の有効成分が入っていて、以前からALSに対する効果が期待されていた。
実際、発売元のエーザイは2015年に一度、この薬の承認申請をしている。なんと、さかのぼること9年も前の話である。
残念ながら、このときは、進行抑制の効果が十分に証明されないということで承認は見送られてしまったが、この薬が、“早期のALSの進行抑制”に期待できるとして、いわゆる「リポジショニング」の薬として申請されたのだ。リポジショニングとは、すでに承認され、使用されている薬を、元々の使い方と異なる使用法で申請し直すことを指す。
こうしてリポジショニングとして復活したロゼバラミンは、ALSという人類にとっては向かうべき強敵への有効な武器となったといえる。
車いすの物理学者として有名なホーキング博士や、毛沢東氏などが罹患したことでも知られるALSという病気は、筋疾患というジャンルにある難治性疾患で、厚労省の難病指定も受けている。
自律神経系に関わる節前(せつぜん)性線維という神経細胞が萎縮し、筋肉をコントロールするための司令系統に大きな支障が出る病気で、原因は不明だ。
腕や足の筋力が徐々に低下し、やがて飲み込みをつかさどる筋肉や、呼吸をするための筋肉も低下する。その結果、人工呼吸器の助けなしでは呼吸できなくなるなど、次第に身体能力が著しく低下してしまう。その一方で、知的能力は基本的に長期に保たれるというアンバランスが、闘病を難しくしている。
病気のメカニズムの全容がまだ解明されておらず、根本的な治療法も存在しない。世界中の研究者や製薬企業が治療薬の開発に取り組んでいるが、多くが中断を余儀なくされている。
この春にも、アメリカ当局に認められた新薬を携えたアメリカのアミリックス(Amylyx)社が、臨床試験を行っていたがうまくいかず、設立した日本法人を解散するという残念なニュースがあったばかりだ。
また、この病気の発症に関する遺伝子の関与も一部の病型でしかわかっておらず、現時点では遺伝子治療がカバーできる範囲も限定的である。
あきらめず「追試」で有効性を実証
さて、2015年に一度は承認を見送られてしまったロゼバラミンだが、専門家はあきらめなかった。追試をしたのだ。
徳島大学病院脳神経内科の梶龍兒医師(当時)、和泉唯信医師、沖良祐医師らが中心となって、千葉大学医学部附属病院、福島県立医科大学附属病院など多施設の「医師主導治験」というやり方で、早期のALS患者さんに限定して申請に必要となる臨床試験を行った。
医師主導治験とは、普通の治験、すなわち製薬企業が主導して行う治験と異なり、文字通り医師が主導して行うタイプの治験を指す。
治験には膨大な手間暇やお金がかかり、製薬企業は専門の開発部署を作り、長年にわたって、多くの社員が専従して行う。
餅屋がやっても大変な大仕事である。ロゼバラミンは企業(エーザイ)主導の治験では承認に至らなかったものを、医師主導治験で新たに有力な証拠(エビデンス)を作ろうとして計画されたのが、今回の治験である。
製薬企業に長く奉職した筆者からしても、それがいかに大変であったかは想像にあまりある。
資金面だけでなく、余剰のスタッフがいない病院という現場で、膨大な事務機能を誰がどうやって担うか。担当する医療従事者は、倫理委員会などを通すための膨大な書類の作成や、治験に参加する患者さんの調整やデータの分析のほか、さまざまな事務処理を、日常の診療業務に加えて行わなければならない。
いくら製剤を提供する企業のバックアップがあったとしても、企業主導の治験の続きを医師主導治験でやるというのは、なかなかにハードルが高い。これだけは多くの人たちに知っておいていただきたいと思う。
それでも、そういう苦難を「絶対に役立つはず」という信念のもとにやり遂げ、新しいエビデンスを実証してみせた。
冒頭でも触れたが、この医師主導治験の結果、早期のALS患者さんにロゼバラミン(メチルコバラミン)を投与すると、16週の時点で機能評価スケールの低下を統計学的に有意に抑制させることがわかった(図参照。外部配信先では閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。
機能評価スケールというのは、国際的に用いられているALS患者の日常生活を評価する尺度で、重症であるほど点数が低い。
(グラフ:和泉医師提供)
その後の延長試験の結果からは、早期に投与した実薬群が遅れて投与したプラセボ群に比べて500日以上の生存期間の延長を示した。500日以上といえば1年半にもなる。一方、副作用などに関してはプラセボ(疑似薬)と同等で、安全性も高いことがわかった。
11~12月には治療が始まる
ロゼバラミンが今回の承認につながったというストーリーは、まさに、専門医の医師たる矜持の最たるものである。筆者は同じ医師の端くれとして、感激といってよい感慨を憶える。
長いトンネルを経て、ロゼバラミンが陽の目を見るにいたった、この治験のことは、先日から医師仲間の間でもしばしば話題になった。
専門家の臨床的な勘からくる「信念」は、本当に得難い、素晴らしいものであると私は思う。また、最近持てはやされるAIに決して代替されない、真の意味で医師の“聖域”の1つなのではないかと思う。
一般的に、新薬は保険適用に必要な薬価収載をした後の発売となり、薬価収載は「承認から原則60日以内、遅くとも90日以内」というルールがある。エーザイからは明確な時期を聞けなかったが、順調にいけばロゼバラミンは11月~12月ぐらいには市場に出て、患者さんが投与を受けることができると思われる。素晴らしい話だ。
一方で、これでALSが治癒できるわけではない。戦いはこれからも続くことを忘れてはならない。