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ハンチントン病について知る①
福岡市でがん難病専門緩和ケア施設の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。
今回は神経難病の中でも稀なハンチントン病について書いていきます。今後がん難病施設を運営するNICEでも積極的にハンチントン病の利用者様をお受入れしていきます。
ハンチントン病とは
自分の意志に反して手足、顔面をピクつかせたり動かしてしまう舞踏運動と認知機能障害、精神症状(幻覚、妄想、抑うつなど)をきたす遺伝性、進行性の神経疾患です。常染色体優性遺伝ですので、性別に関係なく遺伝子異常が50%の確率で子孫に伝わります。大脳基底核の一部である尾状核に存在する小型神経細胞の脱落により、GABA作動性抑制神経細胞が機能低下をきたすことで舞踏運動を生じると考えられています。
遺伝子の異常として、第4染色体短腕上に局在しているHTT遺伝子のDNA配列3個(シトニン・アデニン・グアニン)の繰り返しが異常に増加します(GACリピート)。DNA配列3つの異常伸長が原因となる遺伝性疾患は神経疾患に多くトリプレットリピート病と呼び、ハンチントン病もこれに含まれます。本邦での有病率は10万人あたり1人弱程度とされ欧米より少なく、神経変性疾患の中では稀な疾患です。
ハンチントン病の症状
発症年齢は30~50歳が多いとされますが、高齢で発症することもあります。発症は緩徐で、初期症状としては不随意運動、性格変化、認知症が高頻度に出現します。具体的には、細かい運動がしにくくなった、よく物を落とすなどといった巧緻運動障害、意図に反して顔をしかめたり手先が勝手に動いてしまうといった不随意運動、また落ち着きがない、怒りっぽくなった、無気力、抑うつ状態などといった多彩な精神症状を認めます。これらの症状は緊張時や興奮時に増悪、睡眠中には消失する特徴があります。
症状が進行すると不随意運動や運動持続困難のため、歩行が不安定になり転倒しやすくなり、また呂律が回らなくなったり嚥下が困難になります。徐々に社会生活が営めなくなり、末期には重度の認知症をきたしほぼ寝たきりの状態に至ります。
優性遺伝の形式をとるため、両親のどちらかが同じ病気であることがほとんどですが、一般に子供のほうが若い年齢で発症し重症化する傾向があり(表現促進現象)、この傾向は男親が病気である場合により顕著にみられます。
舞踏運動(不随意運動)をはじめとした運動機能について
- 舞踏運動(不随意運動)
舞踏運動は不随意運動の一種(自分の意志に関わらず生じる体の動き)で、この病気の特徴的な症状です。具体的には、手・首・顔・舌など、顔面を始めとした運動が目立ちます。手足の不随意運動が強くなると歩行なども難しくなり、動作のコントロール全般が難しくなります。このような運動障害は発症後10年以上にわたって悪化します。精神的ストレスは症状を増悪させます。
- そのほかの運動障害
ハンチントン病が悪化するにつれ、動作の緩慢・筋強剛(固縮)・ジストニア(自分の意志に関わらず筋肉が持続的に収縮し特異な姿勢・姿位を取るような運動症状)などの運動症状がみられるようになります。また、小児の場合はパーキンソニズム(筋強剛(固縮)を主症状とする)から症状が始まります。
その他に見られる徴候として眼球の運動障害もあります。末期になると嚥下障害も起こり、日常生活のあらゆる面で患者さんは負担を強いられることになります。
精神機能について
- 精神症状
主な精神症状は性格の変化と行動の変化です。具体的には、「怒りっぽくなった」「常識的ではない行動を繰り返すようになった」などが中心となります。
抑うつ症状も顕著に表れることがあります。ふさぎ込みや落胆などが症状としては目立ち、あまりにもうつ症状が強くなってしまうと患者さんは自殺を企ててしまうことすらあるため、注意が必要です。ハンチントン病患者さんには自殺が多いこともこの病気の特徴といわれています。
認知機能について
ハンチントン病患者さんの認知能力の変化としては、忘れっぽさ・思考判断が鈍く遅くなる・認知能力の障害などがあります。
初期に柔軟な思考ができなくなり、こだわり・自分の考えへの執着が強くなり、物事を進める能力などが徐々に無くなっていきます。また、何かの記憶を思い起こすことが難しい記憶障害も起こることがありますが、十分な時間とヒントを与えてあげることで思い出せることもあるようです。
このように、ハンチントン病初期の記憶障害は、アルツハイマー病などの認知症と比較すると軽度で済みます。しかし、その反面注意力や集中力は初期段階で損なわれてしまうことが多いと言われています。
以上のようにハンチントン病には様々な症状がありますが、不随意運動が主症状なのか精神症状が主症状なのかは個々の患者さんによって異なり、一概に述べることはできません。
主症状が精神症状であれば、周りの方々は不随意運動に目が向かず、不随意運動に気づいたときにはそれがいつから起こっていたのかわからないパターンもあります。
ハンチントン病の診断
血液検査や脳脊髄液検査では疾患に特異的な異常はみられません。頭部CT・MRIにて大脳基底核の一部である尾状核と呼ばれる部位の萎縮がおこり、進行とともに全脳が委縮、それに伴い側脳室前角の拡大を認め、診断の一助となります。脳血流シンチグラムでは前頭・側頭葉型の血流低下を認めます。下に示す写真はハンチントン病のMRI画像です(黄の矢印で示した尾状核の萎縮のほか、大脳皮質の広範な萎縮もみられます)。
鑑別診断としては、薬剤性のほか、脳血管障害、妊娠性舞踏病、ウイルソン病、有棘赤血球を伴う舞踏病、DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)などがあげられます。これらの疾患とは神経症状、経過、画像所見などからある程度区別がつきますが、確定診断は遺伝子診断(PCR法)によります。前述したHTT遺伝子のCAGリピートの異常伸長が確認されると診断確定となります。リピート数の正常数は26回以下で、36回以上の場合は発症する可能性があり、40回以上ですと発症する確率が非常に高まります。
ハンチントン病の治療
現在のところ根本的に治す、あるいは進行を遅らせる治療法は確立されていませんが、対症療法としてお薬を用いることで症状をある程度コントロールすることが可能です。
舞踏運動に対しては、ドパミン受容体拮抗薬(抗精神病薬)が有効ですが、舞踏運動の程度と副作用のバランスを見極めつつ薬剤の種類や量を調整することが重要です。また攻撃性や抑うつなどの精神症状に対する治療薬も考慮します。