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2024-05-05

人生会議について①ACP(アドバンス・ケア・プランニング)

 福岡市でがん難病専門緩和ケア施設の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。


 今回は人生会議について書いていきます。最近この「人生会議」という文字をメディアで見かけるようになり、様々な場所で検討がなされています。
NICEでもがん難病患者様・高齢者の皆様と家族が後悔しない最良の選択と決定ができるようにご支援をしていきたいと思います。

人生会議とは、人生の終末期における医療やケアの内容について、事前に家族や医師などの信頼できる人たちと話し合うことをいいます。

もともとはACP(アドバンス・ケア・プランニング)という名称で取り組まれていましたが、より馴染みやすい言葉として浸透するよう、厚生労働省によって「人生会議」という愛称で呼ばれることが決められました。


アドバンス・ケア・プランニングの意味

ACPとは「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)」の略です。直訳すると「アドバンス=事前の」「ケア=介護、看護」「プランニング=計画」です。将来の変化に備え、その時の医療やケアについて、本人を主体にその家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのことです。

命が危険な状態になると、約70%の人が将来的な医療やケアについて自分の希望を伝えられなくなると言われています。

そうした場合、家族や医師が「あなたならこのような形を望むはず」と想像しながら医療やケアについて話し合いを行うことになりますが、あらかじめ将来的な医療内容を話し合っておくことで自分の望む形で医療が受けられるようになります。

ACPは単に終末期の“医療”を決めておくことだと誤解されやすいのですが、基本となるのは「自分が何を大切にして、どのように生きていきたいのか」といったことを考える仕組みです。その延長線上にあるのが、医療や介護が必要になった時にどのように病気と向き合うのか、どのようなケアを受けたいのか、終末期にはどのような治療を望むのかといった、医療やケアのあり方です。



人生会議をする意味

人生会議は、自分の命が危険な状態となった場合に自分の望む形での医療やケアを受けられるようにすることを目的としています。

しかしながら、あまりに遠い未来のことを話し合うという性質上、将来についての話し合いをしたことがある人はまだまだ多くありません。

厚生労働省が2017年12月に実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」によると、「人生の最終局面における医療やケアについて考えたことがある」という人は全体の約6割程度に留まっていることがわかっています。

また、同調査で「話し合ったことがない」と回答した人たちの理由として、最も割合が多かったのは「話し合うきっかけがない」、次点で「話し合う必要性を感じない」という理由が挙げられています。


「終末期医療」から「人生の最終段階における医療」へ

国をあげてのACPの普及、推進活動もすすみ、厚生労働省は2015年に「終末期医療」を「人生の最終段階における医療」という表現に改めました。そこには、終末期医療に限らず、最期まで尊厳を重視した人間の生き方に着目した、最適な医療・ケアが行われるべきだという考え方が反映されています。

日本医師会は、2008年に作成した「終末期医療に関するガイドライン」を見直し、2020年5月に「人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン」へと改訂、ACPの重要性を指摘しています。また、日本老年医学会は、2019年6月に「ACP推進に関する提言」をまとめ、多くの人に対してACPが行われるべきであるとの考えを示しました。


想定される事例

人生の最終段階において、最も大切なのは本人の意思であり、医療やケアについても本人の意思が尊重されます。しかし、薬物投与、人工呼吸器装着、栄養補給などの措置が必要になったタイミングで、本人が正常な判断ができなかったり、意思を明らかにできないような状態になっていたりして、本人の意思を確認できないことがあります。

こうした場面で、ACPの考え方に基づき、家族や医療・ケアチームの中で本人の意思が共有されていれば、本人の意思を尊重することができます。例えば最終段階での医学的措置について本人の具体的な指示がなかったとしても、ACPに取り組んでいれば本人の根底にある価値観や人生観は共有できているので、家族や医療・ケアチームで話し合い、本人の意思を推定することができます。



準備していないと困ることは?

医学的措置についてAかBかの選択が必要になった時、本人の意思が確認できなければ、一般的には家族が医療スタッフと話し合ってその後の方針を決めることになります。しかし本人の人生観や価値観がわからない状態で決めなければならない状況は、家族にとって精神的な負担となります。本人が亡くなったあとも、「本当にAを選んでよかったのか」と自問自答し、落ち込んだり、後悔したりすることもあります。親戚などから選択について批判されることもあるかもしれません。

しかしACPに取り組んでいれば、医療・ケアチームと話し合い、この人はこんな人生を歩み、こんな希望をもって生きてきたのだから、きっとAを選択するだろう、この人にとってはAを選ぶことが幸せだろうと推定できます。

誰に何を言われようと、本人にとっての最善を選択できたに違いないと、家族も医療・ケアチームも決断に自信を持つことができるのです。


具体的にどのように行うの?

ACPはいつからどのように始めればいいのでしょうか。具体的な取り組み方について紹介します。

いつから取り組むべき?

意思を伝えることができなくなる日が、いつ訪れるのかを予測することはできません。ACPの土台となる自分が何を大切に思い、人生をどう過ごしていきたいのかを考えることは、30代でも40代でも早すぎるということはありません。人生観や価値観について考える癖をつけておくことは、いくつになっても自分らしく、生き生きと過ごすために役立つはずです。

逆に意識がはっきりしているうちであれば、高齢でも病気をもっていても、遅すぎるということはありません。

健康成人のACP

健康なうちは、図の土台となる部分のように、自分が何を大切に思い、人生をどう過ごしていきたいのかを考え、ノートに記したり、家族や地域社会と共有したりしておきます。

病気を持った患者のACP

病気になったり、高齢になったりしてかかりつけ医をもつようになれば、どのように病気とともに生活していくのか、どのように病気と向き合うのかといったことについて医師と話し合います。

さらに介護が必要になったタイミングで、訪問看護・介護スタッフ、ケアマネジャー、地域の行政サービスの担当者などと、どのようなケアを受けながら、どのように過ごしていきたいのかといったことについて話し合います。

命に関わるような病気になったり、余命がみえてきたりした時点で、人工呼吸器や輸血、栄養補給の方法、透析、看取りの場などについての希望を医療・ケアチームとともに話し合います。

認知症とACP

認知症が進んでから肺炎やがんなど命に関わるような病気になった時、医療の選択は家族に委ねられます。しかし、家族の希望と本人の意思は別のものです。本人の人生観(家族による本人の意志の推定)がわかっていれば、本人の意思に沿った選択をすることができます。例えばアクティブで体を動かすのが好きな人なら、自由に体を動かせるように積極的な治療を選択するだろうと考えることができます。家で静かに読書をするのが好きな人なら、リスクをおかしてまで積極的な治療は望まないかもしれない、などと推測することができます。

ACPの意味からは少し外れますが、たとえ認知症が進んでいて本人はACPに参加できなかったとしても、本人がどのような人生を歩んできたのか、どんなことが好きで、何を楽しみにしていたのかといった家族からの情報をもとに、医療・ケアチームと家族とで今後の医療やケアについて考えていくことはできるのです。

最期を迎える場面だけではなく、日常の医療やケアの場面でもこうした情報は役立ちます。例えば看護師が「こんなお仕事をされていたんですね」といった話題に触れながらケアすると、本人も昔のことを思い出して機嫌がよくなることがあります。そうした様子を見た家族もうれしい気持ちになります。また、患者の人となりがわかると、ケアする側の気持ちも変わってくるものです。