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2024-06-03

卵巣がんについて知る①

福岡市でがん難病専門緩和ケア施設の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。

今回は卵巣がんについて書いていきます。今後がん難病施設を運営するNICEでも積極的に卵巣癌の利用者様をお受入れしていきます。

卵巣を構成するさまざまな組織に発生した腫瘍ががん化したもの

卵巣はさまざまな細胞から構成されています。構成する細胞の種類が多いことから、卵巣に発生する腫瘍の種類も多数認められています。

一般的な分類では、腫瘍が発生した細胞によって、「表層上皮性・間質性腫瘍」、「精索間質性腫瘍」、「胚細胞腫瘍」などのタイプに分類されます。卵巣がんの約90%は、表層上皮性・間質性腫瘍であることが知られています。

このタイプ分類にかかわらず、全ての卵巣腫瘍はその性質によって「良性」、「境界悪性」、「悪性」に分けられます。たとえば、上皮性腫瘍の一種である卵巣嚢腫のうしゅは、漿液性嚢胞腺腫という良性卵巣腫瘍の一種ですが、これががん化した場合は、漿液性嚢胞腺がんという卵巣がんの一種になります。このように、卵巣がんは、卵巣に発生した腫瘍が悪性化したものの総称です。ただし、一概に良性・悪性と分類しきれないケースもあります。

卵巣がんの典型的な症状

腹水や体形の変化などがみられる

卵巣がんで多くみられる症状は、腹水、腹部膨満感(お腹が張ること)、体重減少、体重変化などです。普段着ている衣服のサイズが合わなくなったことで異変を感じる方もいらっしゃいますが、後述する卵巣がんの組織型によっては、初期段階での自覚症状が現れないこともあります。症状が現れない場合の多くは、かかりつけの内科を受診したタイミングで腹水を指摘され、総合病院で精密検査を受けて診断に至ります。

組織型を推定するための卵巣がんの検査

内診(直腸診)

内診では、子宮や卵巣に直接触れて、周辺臓器との癒着の状態を確認します。子宮や卵巣に触れてみて、これらの臓器が可動性を保っている(動く)ようであれば、骨盤や骨、腸などの他臓器に癒着していないため、手術による卵巣の摘出が可能だと判断できます。


カラードプラ法を用いた経膣超音波検査

経膣超音波検査では、カラードプラ法*を用いて、腫瘍の構造および腫瘍内血管の血流速度を測定することにより、良性・悪性を推定します。

悪性腫瘍は、自分自身が発達するために腫瘍への栄養血管を作成しようとします。しかし、悪性腫瘍への栄養血管は短期間で作られた血管であるため、良性腫瘍が栄養血管を作った場合に比べて脆もろく、破れやすいという特徴があります。また、血液の流れが遅いことも特徴です。これらの特徴を有している場合は、悪性腫瘍である可能性が高いと考えられます。

*カラードプラ法…血流のある部分を色付けして表示する方法。プローブに近づく方向の血流と、遠ざかる方向の血流を表す色を変えることで、血液の流れる方向を把握できる。


画像診断(CT、MRI)

CTや造影MRIなどの画像診断で、遠隔転移やリンパ節転移を起こしていないかを確認します。肺などの胸部に転移していると疑われる場合は、脳にも転移していないか検査します。


腫瘍マーカー

術前には、卵巣がんの発症に関連する数種類の腫瘍マーカーを検査し、高値を示す腫瘍マーカーを確認します。

手術後、もう一度腫瘍マーカーを検査します。術前に高値を示したマーカーのうち、数値が低下したマーカーがあれば、それを「フォローアップマーカー」に置いて定期的に検査します。

ただし、一部の腫瘍マーカーは、術前で高値を示していない場合も定期的な検査を実施することがあります。術前に正常値を示しても、リンパ節転移や消化管転移が原因で上昇することがあるからです。


卵巣がんの治療方針

腫瘍切除が第一選択

卵巣がんにおける治療の基本は、手術による腫瘍摘出です。一度の手術で完全切除が可能と判断できるケースでは、原則的に手術が適応されます。手術で可能な限り腫瘍を取り除けるかどうかが、その後の経過に大きく影響します。

手術のみでは完全切除が難しい場合は、抗がん剤の感受性が高い組織型であれば、数か月単位で術前化学療法を実施します。定期的な検査で摘出可能と判断された時点で、手術を行います。

卵巣がんの組織型や進行度によって治療を組み合わせる

大きな治療の流れは、卵巣がんの組織型によって異なります。

Ⅲ・Ⅳ期または、全身状態が悪く手術が難しいほど進行した漿液性腺がんでは、まず術前化学療法を行い、腹水や腫瘍をコントロールします。抗がん剤の効果で腹水の消失と腫瘍の縮小が確認できたら、手術で腫瘍を摘出します。術前化学療法を行うことで、術後の化学療法でも効果が期待できる抗がん剤を推定することができます。

明細胞腺がんは悪性度の高いタイプですが、化学療法の感受性が低く抗がん剤治療の効果が現れにくいので、手術による完全切除を目指した治療が行われます。

類内膜腺がんと粘液性腺がんにおける治療は、進行症例で発見されるケースは少なく、手術が選択されることが多いです。粘液性腺がんの腫瘍は非常に大きくなっていることがありますが、容易に摘出できるケースが多いので、がんと発覚したら速やかに手術を実施します。

薬物療法——抗がん剤、分子標的薬

<初回化学療法>

治療成績の向上を目的として行います。原則として組織型にかかわらず、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)が標準治療とされています。消化器症状(嘔吐、食欲不振)、骨髄抑制(貧血、白血球減少、血小板減少)、末梢神経障害(しびれ)、脱毛などの副反応があります。

<術前化学療法>

初回手術に先立って、または試験開腹後に根治手術完遂率の向上を目的として行います。術前に化学療法を行うことにより、残存腫瘍を1cm未満に出来る可能性や、腸管の切除を回避することが期待できる場合に行っています。

<維持化学療法>

寛解後に長期生存を目的として行います。手術と初回化学療法で完全寛解が得られた場合は不要と考えてよいと思いますが、進行がんにおいては分子標的薬による維持化学療法の導入により無増悪生存期間を延長できることが分かってきました。

<二次化学療法>

再発時や初回化学療法に抵抗を示した場合に行います。前回の抗がん剤治療が終了してから半年以上経過して再発した場合は、プラチナ製剤(カルボプラチン)を中心とする初回治療と同一あるいは類似した薬剤を選択します。

一方で、6か月未満の再発や初回化学療法が無効な場合はイリノテカン、ゲムシタビン、リボソーム化ドキソルビシンなどの単剤投与が行われます。

<分子標的薬>

  • ベバシズマブ

血管内皮増殖因子(VEGF)と結合することで、がん組織が新しい血管を作ることを抑える薬剤です。増殖のために豊富な栄養を必要とするがん組織に対して本薬剤を投与すると、栄養血管の構築が遅れることで腫瘍は壊死します。

  • オラパリブ

卵巣がん(高異型度漿液性腺がん)の半数でDNAの修復不全が認められます。BRCA1/2は修復に携わるタンパク質の一部で、この遺伝子に生まれつき異常がある場合、乳がんや卵巣がんになりやすいことが知られています(HBOC:遺伝性乳がん卵巣がん症候群)。

オラパリブは、DNAの修復を十分行えないがん細胞が修復するために必要な酵素であるPARP(poly(ADP-ribose)polymerase)のはたらきを抑える薬です。


手術による腫瘍の摘出

手術の目的は、腫瘍の組織型確認と進行期決定、病巣完全摘出を目指した腫瘍の減量です。一般的な術式としては両側の卵巣と卵管、子宮、大網の切除に加えて腹腔細胞診、リンパ節郭清(生検)が行われます。大腸や小腸に転移が認められる場合は腸管の部分切除を、腹膜表面に腫瘍と疑われる塊が認められた場合は可能な範囲で腹膜生検を行います。

初回手術で取り切れなかった腫瘍の最大径が1cm未満の場合の予後は比較的良好であり、肉眼的に腫瘍の認められない完全摘出が得られた場合の予後はさらに良好です。進行がんは、必ずしも腫瘍を完全摘出できるとは限りませんので、初回手術において最大径が1cm以上の腫瘍が残った場合は、術後化学療法中に腫瘍の減量を目的に再手術を行う場合もあります(IDS:腫瘍減量術)。

病態は患者さんごとに異なりますので、たとえばMRIなどの画像所見で腸管や尿管に浸潤を認める場合は消化器外科、泌尿器科と共同で手術が行われることもあります。

一方、妊娠を望まれる方の場合には妊孕性の温存と生命予後改善の両立が求められます。下記の適応*に準拠して、温存可能と判断された場合には、術式を縮小して子宮と対側付属器を温存します。