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多発性硬化症について知る①
福岡市でがん難病専門緩和ケア施設の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。
今回は神経難病の中でも稀な重症筋無力症について書いていきます。今後がん難病施設を運営するNICEでも積極的に重症筋無力症の利用者様をお受入れしていきます。
多発性硬化症とは
多発性硬化症は中枢神経の代表的な脱髄疾患の一つです。神経細胞は電気活動を伝える長い電線のような構造(軸索といいます)を持っています。生活の中で我々が使う電線はショートしないように絶縁体で覆われていますが、同じように神経の軸索も髄鞘(ずいしょう)という成分で覆われています。
この髄鞘が壊れて中の軸索がむき出しになってしまい、機能が低下するのが脱髄疾患です。なぜこの脱髄が起きるかについて、根本的な原因は不明とされていますが、本来は人間の体を外敵から守ってくれるはずの免疫機能の異常が関連していると言われています。多発性硬化症では脱髄がまだら状に脳や脊髄のあちこちに生じることで様々な症状が出現します。
なお、多発性硬化症には視神経脊髄炎という類縁の病気があり、こちらは主に目の神経(視神経)と脊髄に脱髄病変を作ることが知られています。
多発性硬化症の特徴
年齢と性別
多発性硬化症は、発症しやすい年齢帯や性別が知られています。若い成人に発症することが多く、平均発症年齢は30歳前後です。5歳以下の発症はまれで、また60歳以上で発症することも少ないです。性別については女性が多く、男女比は1:2~3程度です。視神経脊髄炎は多発性硬化症よりも高齢で発症する割合が多いとされています。
症状
多発性硬化症の症状は病変が脳や脊髄のどこに生じるかによって大きく変わります。視神経に病変が生じると視力が下がったり、視野が欠けたりします。大脳の病変では手足の脱力や感覚の異常が生じますが、場所によっては特に症状を生じないこともあります。脳幹という脳の奥の部位に病変があれば、ものが二重に見える、顔が麻痺するなどといった症状がみられ、脊髄に病変が出現すれば手や足のしびれや脱力、排尿・排便の問題などが生じます。
同じ病名でも人によって症状が異なることが多い、多彩な症状を起こしうる病気です。多発性硬化症は神経内科で扱う病気ですが、目の症状から始まる場合、多くの方は眼科を受診することが診断のきっかけとなります。
多発性硬化症(MS)の主な症状
多発性硬化症でみられる症状は、脱髄が起こる部位によって異なるため、患者さんによって様々です。比較的よくみられる症状には以下のようなものがあります。
感覚障害 | 触った感触や温度の感覚が鈍くなる、逆に過敏になる。痛みやしびれ感など、異常な感覚が生じる。 |
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運動障害 | 手足に力が入りにくい。体の片側が動きにくい。ふらついて歩きにくい。 |
目の障害 | 霧がかかったようになり見えにくい。視力が急に低下する。視野が狭くなる。ものが二重に見える。 |
排尿障害 | 尿の回数が頻回になる。間に合わず失禁する。尿が出にくい。残尿感。 |
認知・精神障害 | 理解力の低下やもの忘れがある。気分が高揚する。うつ状態になる。 |
発熱、入浴、運動などにより体温が上がると、それまでにこの病気であったしびれ感などの症状が一時的に悪化することがあります(ウートフ徴候)。また、頚部を前屈すると肩から背中にかけて放散する電撃痛を生じることがあります(レルミッテ徴候)。
多発性硬化症(MS)の経過
経過によって「再発寛解型」、「一次性進行型」、「二次性進行型」に分類されます。「再発」とは、神経症状が悪化して24時間以上持続し、かつ、前回の発作との間には1ヶ月以上の安定期があることと定義されます。「進行」とは、再発とは別に1年以上にわたって神経症状がゆっくり悪くなることです。
分類 | 内容 |
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再発寛解型 | 急に症状が出ては治るを繰り返す。再発を繰り返すたびに後遺症を残すようになる。約8割の患者が再発寛解型として発症・進行し、そのうちの約半数が15~20年の経過で二次性進行型に移行する。 |
一次性進行型 | 再発寛解型を経ずに、最初から障害が持続性に進行する。 |
二次性進行型 | 当初は再発寛解型を示すが、その後は再発の有無にかかわらず、障害が持続性に進行する。 |
多発性硬化症の診断
写真:斑状に白く写っている部分が「脱髄班」です
まずは問診と診察によってどのような症状があるか、客観的に見て脳や脊髄のどの部位に問題がありそうかを見極めます。画像検査ではMRIが非常に有用で、多発性硬化症に特徴的な脱髄病変があるかどうかを確認します(写真)。多発性硬化症ではその名の通り脱髄病変が多発すること、また時間をおいて繰り返すことが特徴であり(専門的には「時間的・空間的に多発する」と言います)、画像検査でもその所見があるかどうかがポイントとなります。また脳や脊髄の領域に脱髄があれば、その周りを満たす髄液という液体内に異常が現れるので、髄液検査も必要となります。視神経に病変が生じた場合には、眼科での診察が重要となります。
多発性硬化症(MS)の診断
診断の基本は、中枢神経における脱髄病変の空間的および時間的な多発性の証明です。そのために、問診、神経診察、髄液検査、電気生理検査、MRI検査などを行います。
問診 | 空間的、時間的に多発するエピソードがあるか、病歴を確認する。 |
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神経診察 | 病巣部位を推測し、空間的に多発しているかを評価する。 |
髄液検査 | 髄液の性状を調べ、中枢神経の炎症の有無を間接的に評価する。多発性硬化症ではオリゴクローナルIgGバンドの出現、IgGインデックスの上昇が見られる。 |
電気生理検査 | 手足や目に電気や光の刺激を与え、脊髄や視神経において脱髄による神経伝導の遅れがないかを評価する。 |
MRI検査 | 脳や脊髄において脱髄病変がどこにどれだけあるかを確認する。造影剤を使用すれば、新しい病変は白く描出されて区別がつきやすい。 |
多発性硬化症の治療
多発性硬化症の治療は神経内科の領域でも特に近年進歩が著しい分野です。
症状が出てすぐの時期(急性期)は、副腎皮質ホルモン(ステロイド)という免疫を抑制する薬の点滴投与を行うことが一般的です。またリハビリテーションも重要です。
多発性硬化症は上で述べた通り繰り返す(再発する)ことが特徴の病気ですが、近年は再発予防のための薬が多く登場しており、患者さんごとの選択がなされるようになっています。症状の進行や、女性の場合は将来的な妊娠希望などを考慮して薬を選択します。また多発性硬化症は厚生労働省の特定疾患に指定されており、申請して認められれば治療費の助成を受けることが可能となります。