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多系統萎縮症のリハビリについて
福岡市でがん難病専門緩和ケア施設(ホスピス専門)の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。
今回は多系統萎縮症のリハビリについて書いていきます。今後もNICEでは多系統萎縮症患者様を積極的支援・お受入れしていきます。
多系統萎縮症(MSA)のリハビリテーションは、疾患の進行を遅らせ、患者の生活の質を維持・向上させるために非常に重要です。MSAは進行性の神経変性疾患であるため、完全に症状を治すことはできませんが、リハビリテーションによって患者が自立して生活を送る期間を延ばし、転倒や筋力低下のリスクを減らすことができます。リハビリの内容は、患者の症状や状態に応じて個別に計画され、運動機能、自律神経症状、呼吸機能など、多面的なアプローチが必要です。
1. リハビリテーションの目標
MSAのリハビリテーションには、以下のような目標があります。
筋力やバランスを維持し、転倒のリスクを減らす
日常生活動作(ADL)をサポートし、自立性をできる限り維持する
呼吸機能の維持や改善を図る
関節の可動域を保ち、拘縮(筋肉や関節が硬くなること)を防ぐ
嚥下や発声の改善を図り、誤嚥性肺炎やコミュニケーション障害を防ぐ
自律神経症状を管理し、症状の悪化を予防する
リハビリの内容は、MSAの進行度合いや患者の個別の症状に合わせて柔軟に変更されます。
2. 理学療法(PT)
2.1 筋力トレーニング
筋肉の弱化を防ぐための筋力トレーニングは、MSA患者において重要です。進行とともに筋力が低下し、筋肉が硬直することがあるため、以下のような運動が行われます。
筋力強化運動:主に下肢や体幹の筋肉を鍛えることが重視されます。これにより、歩行や立ち上がりが容易になり、転倒のリスクを軽減します。
関節の可動域訓練:関節の柔軟性を保つためのストレッチや運動を行い、拘縮を予防します。
2.2 バランストレーニング
MSAの患者は、特に歩行中や姿勢の保持に問題を抱えることが多いため、バランストレーニングが重要です。以下のようなトレーニングが行われます。
立位バランストレーニング:立位保持や体重移動を練習し、転倒しにくくするための訓練です。
歩行訓練:歩行のパターンを改善するため、歩行補助具(杖や歩行器)を用いた歩行訓練が行われます。歩幅を広げ、歩行スピードを維持することを目指します。
2.3 転倒防止のための環境整備
MSA患者は転倒のリスクが高いため、リハビリでは家庭や生活環境の調整も行われます。バリアフリー化や手すりの設置など、物理的な環境の改善が推奨されます。
3. 作業療法(OT)
作業療法は、日常生活における動作の自立をサポートすることを目的としています。MSAが進行すると、日常生活の中で行う基本的な動作(食事、着替え、トイレなど)が困難になることがあります。そのため、以下のような訓練や支援が行われます。
3.1 日常生活動作(ADL)の訓練
食事や着替えの訓練:手の震えや運動失調がある場合、患者がスムーズに道具を使えるように訓練が行われます。また、食器や衣類などを工夫することで、動作を簡単にする方法も取り入れます。
トイレや入浴の支援:身体のバランスが不安定な患者には、トイレや入浴の際に転倒を防ぐための補助具の使用や、環境の整備を提案します。
3.2 創造的活動によるリハビリ
作業療法では、創造的な活動(絵を描く、裁縫、園芸など)を通じて手先の巧緻性(細かい動作の能力)を維持する訓練も行われます。これにより、脳の刺激を促し、症状の進行を遅らせる効果が期待されます。
4. 言語療法(SLT)
MSAの進行に伴い、発話や嚥下(飲み込み)に関する問題が出現することが多いため、言語療法士によるリハビリも重要です。
4.1 構音障害へのアプローチ
MSAの患者は発音が不明瞭になる構音障害が現れることがあります。これに対して、以下のような訓練が行われます。
発声訓練:声帯の機能を保ち、話す際に必要な筋肉を強化するための訓練です。
コミュニケーション補助具の使用:話すことが難しくなった場合、患者がコミュニケーションを維持できるように、文字盤や音声出力装置の利用もサポートされます。
4.2 嚥下障害への対応
MSA患者は嚥下障害(飲み込みにくさ)を抱えることが多く、これが誤嚥性肺炎のリスクを高める原因となります。以下のような訓練が行われます。
嚥下訓練:嚥下の際に使う筋肉を強化し、飲み込みやすくするための訓練が行われます。
食事指導:嚥下が難しい患者には、飲み込みやすい食形態やとろみのつけた飲み物などの食事形態を指導します。
5. 呼吸リハビリテーション
MSAの進行により、呼吸機能が低下することがあります。特に、呼吸筋の弱化や睡眠時無呼吸が問題となるため、呼吸リハビリテーションが行われます。
呼吸筋トレーニング:呼吸に関わる筋肉を鍛えるための呼吸エクササイズを行います。これにより、呼吸の効率を改善し、呼吸困難を軽減することが期待されます。
持続的気道陽圧(CPAP)療法:睡眠時無呼吸症候群の患者には、CPAPマスクを使用して気道を確保し、安定した呼吸を促します。
6. 自律神経症状への対応
MSAでは、起立性低血圧や膀胱機能障害といった自律神経症状が頻繁に見られます。これらの症状に対するリハビリ的なアプローチも行われます。
起立性低血圧への対応:血圧を急激に下げないために、ゆっくりと立ち上がる習慣をつけたり、圧迫ストッキングや腹帯の使用を推奨します。また、食事の際には塩分の多い食品を適度に摂取することで、血圧を安定させます。
膀胱機能障害への対応:排尿訓練や膀胱カテーテルの使用など、膀胱機能の管理が行われます。
7. 心理的サポート
MSAは身体的な症状だけでなく、心理的な負担も大きい疾患です。進行が速いため、患者は抑うつや不安を感じることが多く、リハビリでは心理的サポートも重要な役割を果たします。心理カウンセリングやサポートグループへの参加が勧められることがあります。
8. 家族や介護者のサポート
MSA患者のリハビリテーションでは、家族や介護者のサポートが欠かせません。介護者が適切な介護方法やリハビリの進め方を学ぶことで、患者が安全かつ快適に生活できるようにサポートすることができます。専門家による指導の下、介護技術や患者への接し方を学ぶ機会が設けられることがあります。
まとめ
多系統萎縮症(MSA)のリハビリテーションは、運動機能の維持、自律神経症状の管理、呼吸機能のサポートなど、多面的なアプローチが必要です。疾患が進行するにつれて、患者の身体的・心理的負担が増すため、適切なリハビリとケアが重要となります。リハビリによって症状の進行を遅らせ、生活の質をできる限り高めることが目標です。