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小腸がん(十二指腸がん、空腸がん、回腸がん)について知る① 緩和ケア専門施設(ホスピス)
福岡市でがん難病専門緩和ケア施設の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。
今回は小腸がん(十二指腸がん、空腸がん、回腸がん)について書いていきます。今後がん難病施設を運営するNICEでも積極的に小腸癌(十二指腸がん、空腸がん、回腸がん)の利用者様をお受入れしていきます。
小腸がん(十二指腸がん、空腸がん、回腸がん)について
小腸には様々な腫瘍が発生することが知られています。小腸悪性腫瘍の組織型は、
- 神経内分泌腫瘍
- 腺がん(がん情報サービスへリンクします。)
- 悪性リンパ腫
- 肉腫(GIST、平滑筋肉腫)
が主であり、頻度としては、神経内分泌腫瘍が最も多く、次いで腺がんが多いとされています。このページでは小腸から発生する『腺がん』について解説していきます。
一般に小腸腺がんは、ファーター乳頭部がんを除く十二指腸原発腺がん、空腸原発腺がん、回腸原発腺がんのいずれかと定義されます(以下、「小腸腺がん」は上記3疾患の総称として用います)。小腸腺がんは全悪性腫瘍のうちの0.5%以下、全消化管悪性腫瘍のうちでも5%以下とされています。欧米諸国における小腸腺がんの年間発症率は0.22人/10万人から0.57人/10万人と極めて稀な腫瘍であり、希少がん(年間発症率:6人未満/10万人)に該当します。
小腸腺がんの原因は不明であり、リスク因子としては、クローン病や潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、家族性大腸腺腫症やポイツイエガース症候群・リンチ症候群などが知られています。
症状について
小腸腺がんは小腸の前半部分に好発し、およそ45%が十二指腸、35%が空腸、そして20%が回腸に発生するとされます。早期がんでは無症状であることが多いです。
十二指腸の奥より肛門側に病変がある場合、通常の内視鏡による観察が不可能であるため、大半の患者さんは便潜査陽性や貧血の進行、腸の狭窄による腹痛や腸閉塞といった症状を契機に、高度に進行した状態で発見されます。十二指腸の病変が進行すると、上記の症状のほか、胆汁の出口を塞いでしまうことで黄疸を来すこともあります。
診断について
小腸がんではCEAやCA19-9といった腫瘍マーカーが上昇することがありますが、これらは小腸がんに特異的なマーカーではないこと、悪性腫瘍以外の原因で異常値を示すことが知られていること、非常に進行した状態でも異常値とならないケースも多々ありますので、腫瘍マーカーだけで小腸腺がんの有無を判断することは不可能です。
上記のように十二指腸の手前の病変に関しては通常の内視鏡検査にて病気を発見できることが多いですが、十二指腸の奥より肛門側の病変に関しては発見が困難です。近年、カプセル内視鏡検査が実施可能となり小腸腫瘍の存在診断に有用とされていますが、この検査では病気の部分から組織を採取(生検)することによる病理診断ができません。最近ではダブルバルーン内視鏡の登場により、十二指腸より奥の病変に対しても生検が可能なケースが増えてきていますが、確定診断のために外科的手術が必要となることも少なくありません。
治療について
N0(所属リンパ節転移なし) | N1(所属リンパ節転移1-2個) | N2(所属リンパ節転移3個以上) | M1(遠隔転移あり) | |
T1a: 粘膜内癌 | Stage I | Stage IIIA | Stage IIIB | Stage IV |
T1b: 粘膜下層 | ||||
T2: 固有筋層 | ||||
T3: 粘膜下層 [漿膜を破っていない腸間膜(注1)・後腹膜浸潤(注2)はT3] | Stage IIA | |||
T4: 他臓器浸潤 [T3に該当しない腸間膜・後腹膜浸潤はT4] | Stage IIB |
- ステージI:リンパ節転移がなく、病巣が粘膜の比較的表面にとどまっているもの
- ステージII:リンパ節転移がなく、病巣が粘膜の深部(粘膜下層)に達しているもの
- ステージIII:病巣の深さに関係なく、リンパ節転移がみられるもの
- ステージIV:ほかの臓器への遠隔転移がみられるもの
小腸腺がんは、その希少性ゆえ、これまで第III相臨床試験による十分な科学的根拠を基に確立されている治療(標準治療)は存在しません。
ステージIからIIIについては、「病巣の切除」が主たる治療になります。ステージIのうち腫瘍が深部に入り込んでいないと判断される場合は「内視鏡的切除」が行われ、ステージIでも内視鏡切除の適応にならないものやステージIIからIIIについては、腫瘍の周囲のリンパ節を含めて「外科的切除」を行うことが行われます。小腸腺がんについては根治手術(手術所見で明らかな腫瘍の取り残しがなく切除できた状態)後の再発予防を目的とした術後治療の有効性は確立されていないこと、保険適応となっている薬剤がないことから、手術後は追加治療を行わずに慎重に経過観察(手術単独療法)を行うことが一般的です。現在、世界各国で根治手術後の小腸腺がんを対象とした術後化学療法の第III相臨床試験が実施されており、日本でも全国20施設で、先進医療制度B下で無償提供薬剤を用いた試験が進行中です。
またステージIVや手術後の再発の場合には、全身に腫瘍が及ぶ病態と考え化学療法による全身への治療が行われます。小腸腺がんの化学療法については、過去の複数の第II相試験の報告にて、大腸がん(がん情報サービスへリンクします。)の治療の一つである「フッ化ピリミジン+オキサリプラチン療法」(CAPOX療法やFOLFOX療法)の治療成績が良好であることが示されており、日本でも2018年9月よりステージIVまたは再発小腸がんへのFOLFOX療法が保険適応となりました。
FOLFOX療法が無効となった場合の治療については、複数の第II相試験(ナブパクリタキセル、RAS遺伝子野生型小腸腺がんへのパニツムマブ、注:いずれも日本では保険適応外の薬剤)の結果が報告されていますが効果は限定的であり、有効な治療法は確立していません。
一方で、小腸腺がんは他のがんと比較して「マイクロサテライト不安定性(MSI)」という遺伝子異常を有する割合が比較的高い(10%前後)ことが知られています。そのような特徴をもつ固形がんに対して、現在免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ療法が、がんの発生部位に関わらず保険適応となっており、MSIという遺伝子異常を有する小腸腺がんにおいても治療成績が良好であることが示されています。注意点として、MSIという遺伝子異常を有さない小腸腺がんについては、ペムブロリズマブ療法は保険適応とはなっておらず、小腸腺がんを対象にした第II相試験の結果からも効果が乏しいことが示されています。
縮小手術(臓器温存手術)について
十二指腸GIST(消化管間質腫瘍)、内視鏡的切除の難しい早期十二指腸がんといったリンパ節転移頻度のかなり低い悪性腫瘍や、十二指腸腺腫や神経鞘腫といった良性腫瘍に対しては、臓器機能の温存目的に、膵頭十二指腸切除術のような大きい手術ではなく、切除範囲を最小限にとどめた縮小手術も積極的に行っています。
国立がん研究センター東病院ではこういった患者さんに対しては多くの場合、十二指腸の部分的な切除で腫瘍を摘出できています。病変が広範囲に及んでいても「膵温存十二指腸切除」という膵臓や胆管は温存し、十二指腸のみを切除する手術術式もあります。