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2024-05-09

重症筋無力症について知る①

福岡市でがん難病専門緩和ケア施設の住宅型有料老人ホーム ひいの邱 と サービス付高齢者向け住宅 ながおの郷 を運営しております株式会社NICEとグループホーム ひいの郷 を運営しております有限会社エス・エイチ・シーです。

今回は神経難病の中でも稀な重症筋無力症について書いていきます。今後がん難病施設を運営するNICEでも積極的に重症筋無力症の利用者様をお受入れしていきます。


重症筋無力症は、自分の体の成分に対する抗体(自己抗体)が出現することにより病気が起きる「自己免疫疾患」の一つです。多くの場合、体の各部分に存在する末梢神経と筋肉との継ぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が自己抗体により破壊されてしまい、神経から筋肉に信号が伝わらなくなってしまいます。


 このために、筋肉がすぐに疲れて力が入らなくなるという症状が起こります。特に、瞼が下がってくる(眼瞼下垂)、ものが二重に見える(複視)などの眼の症状を起こしやすい点が特徴です。眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状があるものを全身型とよんでいます。また、嚥下がうまくできなくなる場合や、重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来す場合もあります。


 重症筋無力症の高齢者での頻度は世界的に増加傾向と報告されていますが、これはこの疾患が広く知られるようになったためと考えられます。日本での2006年の調査では、推定有病率は人口10万人あたり11.8人という調査結果が出ています(難病情報センター)。男女比は1:1.7で女性に多く、発症年齢は5歳未満に一つのピークがあり、その他女性では30歳台から50歳台、男性では50歳台から60歳台にピークがあります。

重症筋無力症の原因

 この病気の筋力低下の原因としては、神経筋接合部に存在するいくつかの分子に対して自己抗体がつくられ、神経から筋肉に信号が伝わらなくなるためと考えられています。
 自己抗体の標的として最も頻度が多いのがアセチルコリン受容体で、全体の80~90%程度でこの受容体に対する抗体が検出されます。しかし、眼筋型の患者さんの半数程度では、抗アセチルコリン受容体抗体が陽性にならないと報告されています。こうした患者さんの中には抗体の量がごくわずかで、一般的な検査では検出できない人も含まれていると考えられます。

 また、抗アセチルコリン受容体抗体が検出できない患者さんの40%程度では、筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)に対する抗体が検出されます。そのほかにも、2011年には抗低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白質4(LRP4)に対する抗体も報告されました。

 しかし、なぜこのような自己抗体が患者さんの体内で作られているのかは、いまだにわかっていません。また、これらのいずれも陽性にならない患者さんもいます。抗アセチルコリン受容体抗体をもつ患者さんの約75%に胸腺の異常(胸腺過形成、胸腺腫)が合併することから、何らかの胸腺の関与が疑われています。


重症筋無力症の症状

 この疾患の症状の中心は、変動する骨格筋の筋力低下です。この症状は骨格筋であればどこでも現れますが、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状が起こりやすいことが特徴的です。また、のどの周りの筋肉に症状が出ると、話したり、噛んだり飲み込んだりする際に障害がでます。四肢の筋力低下が強い患者さんもいます。重症化すると、「筋無力症クリーゼ」という状態になり、呼吸筋麻痺や嚥下の障害により命に関わる場合があります。以下に詳しく書いていきます。

重症筋無力症は多くの場合、眼瞼下垂(目ぶたがたれてくること)、複視(両目でみると物が二重に見えること)などの眼の症状で始まります。

他の症状としては、頸の筋力が低下するために、首を支えていることができず、頸が前や後ろに倒れてしまう首下がりを起こすことがあります。また、のどの筋肉の筋力が低下して、構音障害・嚥下障害などが出現することがあります。

易疲労性は手足などの筋肉に何度も力をいれるようなことを繰り返すと、普通の人よりも疲れやすく、力がはいりにくくなってくる症状ですが、休息により症状が改善します。一日の中でも変動があり、午前中は良かったのに、夕方になると症状が強くなるという特徴があります(日内変動)。

顎の筋肉も疲れやすいので、長く噛んでいることができなくなることもあります。

このように、最初は眼、首回り、肩のあたりの筋肉から症状が出ることが特徴的なのですが、症状が拡がってくると、全身の手足の筋力低下、易疲労性が出てきます。眼筋のみに症状が限局するものを眼筋型、構音にかかわる筋や、頸部・四肢筋など体幹に症状が及ぶタイプを全身型と呼んでいます。

眼筋型でとどまる例も30%ほどありますが、2年以内に眼筋型の50-60%は全身型に移行していくとされています。

重症筋無力症はいかにも全ての患者さんが”重症”であるという印象があるのですが、軽症から重症まで様々な症例があります。重症例になると横隔膜など呼吸筋にも筋力低下や易疲労性が及びます。そうなると急激に呼吸困難、球麻痺(舌やのどの筋肉の力が弱くなり、言葉が不明瞭になったり、食物を飲み込みにくくなるなどの症状を来す状態)が進行するため、人工呼吸器などの呼吸管理を必要とする状態になることがあり、クリーゼと呼んでいます。

 ”重症”という病気の名前は、かつて重症化した例でクリーゼが起こりやすく、死亡の原因にもなり恐れられていた名残りです。現在では、治療の進歩とともに重症の呼吸障害をきたす例は少なくなってきています。ただクリーゼは今でも経過中10-15%の症例で見られるとされ、注意しなくてはならない病態であることは変わりがありません。


重症筋無力症の治療

 いくつかの治療法がありますが、患者さんの症状や状態に応じて選択されます。

コリンエステラーゼ阻害薬

 神経から筋肉への信号伝達を増強する薬剤です。

免疫療法

 抗体の産生を抑制する治療として、ステロイド、免疫抑制薬の飲み薬や点滴があります。長期にわたり飲み薬の継続が必要となる場合も多く、こうした薬剤の副作用には注意が必要です。特にステロイドでは、糖尿病や高脂血症、肥満、骨折、白内障などに注意が必要です。そのほか、前述した「筋無力症クリーゼ」を来した場合などには、抗体を取り除く血液浄化療法、大量の抗体を静脈内投与する大量ガンマグロブリン療法などを行います。

胸腺摘除術

 一般的には抗アセチルコリンレセプター抗体陽性例では、胸腺の関与が考えられますので、胸腺を外科的に取り除くことが多いです。手術を行う前後から、抗アセチルコリンエステラーゼ薬やステロイドの治療を開始することがあります。また、術後症状が悪くなる場合は、血液浄化療法なども行われます。